「実は……。わたくしには結婚を誓った相手がおります。理由があって今まで公には発表を控えてきましたが」

 二人は更に驚いて、顔を見合わせた。

「わしの娘との結婚を断り娘の名誉を傷つけてまでも、かね。そもそも、この話を打診してきたのは、老レディ・ウェスターフィールドではなかったかな」 

 侯爵の眼差しが険悪になり、怒りの色が濃くなった。エヴァンはふいに立ち上がると、胸に手を当て侯爵に正式な礼をした。そして静かに口を開く。

「ダンバード侯爵閣下。大変なご無礼を申しあげまして、本当にお詫びの言葉もございません。ですが、それは祖母の一存でしたことで、わたしの意志ではなかったのです」

「それで済むと思っておるのか!」

「お怒りは、どのようにもお受けいたします」

 そしてアンナの方を向き、彼は再び丁重に詫びた。

 アンナは腹立たしさと屈辱感で一瞬言葉を失ったが、やがてつんとそっぽをむいたまま怒って問いかけた。

「その方はわたくしより、よほど素晴らしい方のようね。いったいどちらのご令嬢なのかしら?」