ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜


 そのとき、婦人はにこやかに微笑むと、ローズに指輪のはまった白い手を差し出した。

「初めてお目にかかるわね。あなたのお名前は存じていますわ。わたくしはゲイリック伯爵夫人、アンナ・ダンバード・ミルトウェイです」

 その名を聞いた途端、ローズの顔からさっと血の気が引いた。

 彼女は返す言葉もなく、呆然とダンバード侯爵令嬢、現在のレディ・ゲイリック、アンナを見つめていた。

◇◆◇

「お掛けなさいな。そんな顔をしてどうなさったの?」 

 レディ・アンナは優雅に微笑むと座るように促した。勧められるまま、ローズもサロンの椅子に腰を下ろす。

 この方がどうしてわたしの名前を知っているの? しかも話がしたいと言われるなんて……。

 思いがけない成り行きに、ただとまどっていた。

 だが今目の前にいるのは紛れもなく、あのパーティの日、子爵家で見たレディ・アンナその人だ。