ローズが午後の授業を終えて階段を降りていくと、エルマー夫人が貴婦人の客を連れてホールから上がってくる所に出くわした。
上品な香水の香りと衣擦れの音。ローズは脇へ退き、立ち止まって腰を屈める。夫人が彼女に気づいて声をかけた。
「あら、ミス・レスター。マライアのお勉強はもう終わったのね」
「はい、奥様」
「ミス・レスターですって?」
その時連れ立っていた貴婦人の声がした。
「ええ、先頃来られた娘の家庭教師です。ミス・ローズマリー・レスターですわ」
「まあ、ローズマリー・レスターとおっしゃった? ではあなたなの?」
驚きのこもった美しい声と自分に向けられた視線に、ローズは顔をあげた。
黒曜石のような瞳と目が合う。目の前で自分をじっと見ている貴婦人の顔には、確かに覚えがあった。
でもどこで?
