外出から戻った子爵は、いらいらしながら上着を脱ぎ捨てると、銀のシガレットケースから細い葉巻を取り出した。
疲れた……。何もかもうんざりだ。
キャビネットからボトルを取り出し、琥珀色の液体をグラスに注ぐ。
それはまだ時折きりきりと疼く心の痛みを、どうにか鈍らせてくれるたった一つの鎮痛剤だった。
何も考えないようにするにもかなり努力が必要だったし、それでもうまくいかない日が多かった。
数時間後には、またどこかのパーティが待っている。招待状は執事に任せたきりで、どこだったか覚えてもいない。
またそこで誰か令嬢をエスコートして、ダンスなどしなければならないのかと思っただけで憂鬱になった。
心は完全に冷え切っていて、近寄りがたい雰囲気をかもしているらしい。
かつて熱心に彼の気を引こうとしていた良家の令嬢達も、最近は遠巻きに見ているだけで、あまり近づいてこなかった。もっとも彼にとってはその方がよほどありがたい。
