「とぼけても無駄だ。どうせ目が届かないとタカをくくっていたのか? 生産コストを下げると言いながらそのまま放置し、浮いた経費を自分の懐に入れ続けていたんだろう。しかも労働者達のただでさえ乏しい給料を更に削って。数か月前も、ぼくは日数当たりの割合で増やすよう指図したね?」
「しかし大旦那様の代から、雇い人はこれで十分満足を……」
「父の喪は明けて二年だ。今はぼくが工場主だ。ぼくの工場に、工場経費を使い込んでロンドン郊外の屋敷を買うような工場長はいらない。君は即刻解雇するよ。これまで不当に得た利益分も返してもらおう。当然だね?」
「だ、旦那様、そ、それは何の冗談で? わたしはお父上の代からお家に忠実に…」
「そう、お父上の代からでしたね……」
エヴァンに代わって今度はカーターが一歩前に進み出た。手にした調査結果を見るグレーの目に強い怒りがこもっている。
「あなたが今お住まいのいささか分不相応なお屋敷をロンドン郊外に購入されるために、これらの経費をつぎこんだのも調べがついています。無能ぶりを発揮して工場経営を赤字にしただけでは飽き足らず……。過去の記録を調べて正直あきれ返りましたよ。亡き大旦那様はいっさい手を下されなかったばかりか、まったく目も通されていなかったようですね。それをいいことに、あなたはやりたい放題で、邪な利益をむさぼっていた、と」
「はてさて、なんのお話やらさっぱり……。もちろん貴族の旦那様が、現場に自らお出でになれないのは当然でしょうし……」
