時にはローズに話が向けられることもあった。

 最初は緊張したローズも、やがて失礼にならないよう意見や考えを述べることに慣れ始めているのに気づく。


 そして、こんな席にも引け目を感じずに済む程度に、すべてが自分の身についていたのだった。

 それがまだ、ウェスターフィールド家に暮らしていた頃教えられた会話や作法、教養のおかげだと思い至った時、ローズは今更ながら涙が出そうになった。

 要は慣れの問題で、心配したほど恥をかくことも、怖れることもなかったのかもしれない。


 夫妻はオペラ観劇を好むらしく、夜は着飾って出かけることが多かった。

 主人がいなくなると使用人達もめいめい自室や台所へ引き取ってしまう。
そんな夜は、ローズも早めにベッドに入った。

 時折、ソールズ村の無作法だが元気な子供達のことを思い出した。

 突然の成り行きで別れを告げることもできなかったが、あの子達には新しい教師を、キングスリー夫妻が見つけてくれただろうか? 夫妻やメアリーは今ごろどうしているかしら。ふと懐かしくなる。

 こうして、ローズの周りで日々は単調に過ぎていった。