新聞広告を出して三週間後、ローズの元へ突然家庭教師に採用するという手紙が舞い込んだ。

 広告を出してからの期間を考えると信じられないほど早かった。以前は口を見つけるまでに何か月もかかったのだ。

 こうして三月も近いある日、ローズは世話になった伯父の家に別れを告げ、ロンドンの高級邸宅街に続く道を再び辻馬車に乗って、手紙にあるエルマー邸を目指していた。

 ローズを採用してくれたエルマー家は、伯爵家と縁続きの家柄だった。

 十三歳の息子と十一歳の娘がいて、ローズには下の娘の家庭教師を、との話だった。

 シャーロット・エルマー夫人は三十代初めの、上品だが陽気できさくな人柄で、ローズに対してもまるで友人に対するような言葉づかいで、たいそうよくしてくれた。


 授業が終わると、夫人は当たり前のような顔でローズを自分達のお茶の席に同席させた。

 そのためにと、茶会用のドレスまで準備してくれたのには驚き強く辞退した。

 そのドレス代だけでも、自分の一年分もの給料に該当しそうに思えたからだ。だが、エルマー夫人は聞かなかった。

「これはわたくしからのお願いよ。着ていらっしゃって」

 お願いというより命令に近い有無を言わさぬ調子で、にっこり笑って言われては、従う以外ない。

 奥方様の何の気まぐれかしら、と不思議に思いながら、ローズは貴婦人のようなドレスを身につけ、サロンで交わされる様々な会話に耳を傾けていた。