「たいへん結構なおもてなしでしたわ」

 気の置けない仲間内の午後のお茶会に出席していたシャーロット・エルマー夫人は、主催者夫妻にこう挨拶し、サロンから引き取ろうとした。

 その時、つと歩み寄ってきたウェスターフィールド子爵に呼び止められ、話があると言われる。

 珍しいことなので驚きつつも、陽気に微笑みかえした。

「エヴァン、最近はいかがお過ごし? わたくしのサロンには、とんとご無沙汰ではありませんか」

「ええ、まあ。何かと忙しく過ごしていたのでね」

 何気なく答えながら、エヴァンはまだその場に残っている人々から少し離れた一角に彼女を連れていくと、少し雑談してからゆっくりと用件を切り出した。

「実はお宅で今、家庭教師を探しているという話を伺ったのです」

 エルマー夫人は大きく肯いた。

「ええ、娘のマライアにいい家庭教師をつけてあげなければいけないんですけれど、最近はどうも誇大広告が多くて、実際にいい人を選ぶのは、なかなか骨が折れるようね」

「では、いかがでしょう。わたしがよい人材を推薦したいと申しあげたら?」

「それは願ってもないことだわ」

 エルマー夫人は満足げに帰っていった。

 交渉は望みどおりに成立した。だがサロンを後にした彼の顔には、諦めと嘆息の入り交じった複雑な表情が浮かんでいた。