それでも彼女は、確かに自分を愛してくれていた。それだけは間違いない。

 なのに、この先得られる二人の未来を考えもせず、思い出だけを残し自分の前から永遠に去ってしまうと本気で言うのだろうか。

 それも自分にとっては、まったく理由にもならないような理由のために……。

 だが彼女にとって、子爵夫人になるということはそれほど重荷だったのだ。

 もとより紳士として、求婚を断られた時いかに振る舞うべきかは、よく承知しているつもりだし、かつて未練がましくぐずぐずしている友人を見て、情けない奴だと軽蔑したものだった。

 それがこのていたらくだと嘲りながら、彼は片手で目を覆った。

 例え誰に何と言われようが、彼女を忘れることなど到底できそうになかったが、この先どうすればいいのか、もはや彼にもまったくわからなかった。