「パトリック、お願いがあるの」

 それから二日後、出かけようとしたパトリックをローズがそっと呼び止めた。

 金髪をきっちりと一つにまとめ、こざっぱりと身支度を整えている。

「大丈夫かい?」

「ええ、ありがとう。心配をかけてしまったけど、もう平気よ」

 かすかに微笑むと、彼女は手にした手紙をそっと差し出した。

「これを、ウェスターフィールド子爵邸に届けてくれない?」

 パトリックはしばらく躊躇したが、結局黙って受け取り肯いた。

「中にとても大切な物が入っているの。絶対になくさないで、必ず子爵様に直接お届けしてちょうだい。お願いよ」

「子爵がおれに会ってくれるかどうか、わからないけどね」

 心許ない顔の従兄に、ローズは繰り返し念を押した。ようやく肯いてみせると、彼女から緊張が解け、見るからに安堵した様子になった。

 手をあげて出ていくパトリックを見送るローズの目に、再び涙が溢れはじめた。

 こらえるように口に手を押し当てながら、小さくむせび泣いていた。