彼はなんだ、と言うように表情を和らげ、必死に訴えるローズの手を優しく取り上げた。

「そんなことだったのか。なら、心配はまったくいらない。君がぼくと結婚してレディ・ウェスターフィールドになれば、周りも必ず認めるさ。もちろん少し時間はかかるだろうけどね。何をそんなに深刻に考えて悩む必要があるんだい?」

「……あなたには、分からないのね。でも当たり前かもしれないわ。生まれてからずうっとこういう中で育ってきたんですもの」

 ローズは改めて今いる部屋を見回した。

 まるで権勢と富の象徴のような部屋。どう言えばこの生まれながらの貴公子に、自分の気持をうまく納得してもらえるのだろう。

「わたしは自分の属する世界をよく理解しているつもりです。住んでいる世界が違うと、あなただって前に言ったわ。あなたもここ数日ご覧になったでしょう? わたしは旦那様や子供達のために、食事を準備したり家を掃除したり、そういうことが好きだし向いているの。社交界の花になんかなれっこないし、大勢の使用人に指図して舞踏会の準備をしたり、他の奥方様達とオペラやドレスの話に華を咲かせるなんて、到底できないもの。その前に、きっと相手にもしてもらえないでしょうね。そして、あなたもすぐ不器用なわたしに嫌気が差して、後悔するに決まってるわ。そうしたら……、わたしはどうすればいいの?」