夕食が終わるまで、二人はぎこちなく黙っていた。

 やがて、子爵はローズの腕を取ると無理やり自分の居室に連れていった。

 ふた間続きになったその部屋は、一室が居間、奥の部屋が寝室になっている。他の部屋と同様美しかったが、二人ともそんなものは目に入らなかった。

「使用人の前で言い争うのはよそうと思ってね」

 振り向くなり、厳しいダークブルーの目がローズに向かった。

「さっきの話は聞かなかったことにするよ。明日の朝食後出発だ。馬車でロンドンまではほとんど一日がかりだからね。さて……、まだ言いたいことがあるなら、一応聞こうか?」

 子爵が思い切り皮肉に最後の文句を付け足した。同時に、絶対に譲らないぞ、というニュアンスもしっかり含める。

 だが、それはどうやらお互い様らしかった。

「エヴァン……」

 ローズはまるで聞き分けのない子供を諭すように彼を見返した。

「どうかわかって……。今日のことは決して忘れないわ。これから先、どこに居てもわたしの中に一生残るあなたの思い出……。わたしにはそれだけで、もう十分です」