「わたしなんかのために、どうしてそこまで……? わたし、あなたはとうにレディ・アンナと結婚されたと思っていたの。だからあなたを忘れようと必死で、毎日毎日自分に言い聞かせ続けて……」

「しっ、もういい、もういいんだ」

 エヴァンが優しいキスでローズを黙らせた。二人はしばらくそのまま、互いのぬくもりを味わうように寄り添っていた。

 やがて彼女をそっと押し戻すと、上着のポケットからなめし皮の小さな袋を取り出した。

「君に渡したかった物があるんだ。本当は、あのパーティの夜、すべてが終わって君と二人きりになった時、贈ろうと思っていた」

 緑の輝きを放つエメラルドのついた金の指輪。呆然と見ているローズの左手を取りあげ、細い薬指にそれをはめてしまった。

 そして、その手にそっと口づけ、彼はまた微笑んだ。

「これは代々のウェスターフィールド子爵夫人が身につけた指輪さ。母が亡くなった後はぼくが持っていた。花嫁となる人に贈るためにね」

 ローズは薬指にはまった緑に煌く宝石をまじまじと見つめた。顔をあげ何か言おうとするが、言葉が出てこない。

 代わりに涙が雨の雫のように、後から後から頬を伝い落ちた。