「ようやく戻った時には、君はもう出ていった後だった。夜更けに帰ってみたら、マギーが泣きながら、君が出ていったと言いに来た。あの時の衝撃は、言い表す言葉がないよ。文字どおり狂ったように君の部屋に飛んでいった。だが部屋はすでにもぬけの殻、君は本当に行ってしまった後だった。執事に何があったか問いただすと、叔母のメイドが君を、祖母の部屋に連れて行き、その後馬車を準備するよう命じられたと言う。それでだいたいの察しはついた。翌日早々に叔母の屋敷に出向いて、叔母の首を絞めんばかりに問い詰めたんだが……」

夜の海のように暗く陰鬱な彼の眼に、その時以来彼が味わってきた絶望と言い知れない苦痛とが映し出されていた。

「結局、叔母は頑として君の行き先を教えなかった。君からきっと連絡があるに違いないと、その後もずっと待っていたんだ。君がぼくから去ってしまったとは、どうしても考えられなくて、いや、考えたくなかったと言うべきだろうね」