「あの晩、アンナが舞踏会に来たのはまったく計算外だった。アンナはダンバード侯爵からの言伝てを持ってきていたんだ。無下にはできなかった。だけど、おかげで親族に紹介し、矢面に立たせたばかりの君をたった一人で残してしまう結果になってしまった。君がホールからいなくなったことに気づいた時、どんなに心配だったか、君のそばに行きたかったか、到底わかってもらえないだろうな……」

 エヴァンは彼女を抱いたまま、疲れ切ったように言葉をついだ。

「今さらだな。なお悪いことに、その後、アンナを送って、侯爵邸まで行かなければならなくなった。僅かな時間、君の顔を見に行くことすらできずにね……。しかも侯爵からは、やっかいな話を持ち出され、すぐに屋敷に戻ることさえできなかった」

 彼はふーっと長い吐息をついた。