ローズが話す間、子爵は一言も口を挟まず、静かにじっと耳を傾けていた。

 彼の感情は、時折彼女の肩にかかった手に力が込められた他は、ほとんど窺い知れなかった。

 舞踏会後の一部始終を語り終えると、ローズは目をあげて付け加えた。

「本当に子爵夫人がおっしゃる通りだったわ。そして自分でも、どこか他の場所に行ってしまうのが一番いいと思ったんです。その後は、ウィルソン夫人のお手紙にあったお宅にお世話になりました。もちろん一日も早く仕事を見つけて自活したかったので、すぐに新聞広告を……」

 彼の喉から苦しげな声が漏れた。我慢も限界に達したように、肩にかかった手に痛いほど力がこもり、次の瞬間、ローズは再び抱き寄せられていた。