「お母様! 何をおっしゃるんです?」

「確かに良い娘さんだね。けれどあなた、それだけをもってウェスターフィールド家に嫁入りできるとお思いですか?」

「………」 

「貴族の家門はどこも同じ様なものだがね、自分の思い通りに結婚することはめったにないのです。持参金、領地、爵位。貴族の結婚には必ずそういった物がついてまわる」

「………」

「あの子は今夜、ダンバード侯爵邸で侯爵家のレディ・アンナと婚約しました」

 ローズは、ただ目を大きく見開いただけだった。もう神経が疲れきって麻痺しているようだ。

 一刻も早く、この場から自由になりたい。今はそれだけだった。

「では、あなたがどうすべきか、お分かりですね」

 老夫人が目で合図すると、ウィルソン夫人は肯いて傍らの引き出しから、一通の手紙とポンド紙幣の入った封筒を取り出し、まだじっとしているローズの手に押しつけた。

「あなたの紹介状です。あなたをしばらく預かってくれるよう頼んでおきました。即刻馬車を回します。荷物をまとめ、今すぐこの屋敷から出て行きなさい」

 老夫人の容赦ない声が飛んだ。