「ルイーズ、おやめ」

 振りあげた手が一瞬ためらい、それから下へ降ろされた。夫人がベッドを振り返った。

「ですが、お母様!」

「おやめ、はしたない。いいからこのカーテンを開けておくれ」

 夫人が寝台に近づきカーテンを開いた。完全な白髪を太い一本の三つ編みにし、やせて皺だらけの厳しい顔がこちらをじっと見つめている。

 エリザベス老子爵夫人は、レースとシルクの白い寝間着姿で、ゆっくりと枕に身体をもたせかけてベッドの上に身を起こした。

 ウィルソン夫人がガウンを着せかける間も、老夫人はローズを丹念に観察していた。


「ふむ、確かになかなか良い娘さんだこと」

 子爵夫人の呟きにローズは耳を疑い思わず顔をあげた。

 子爵夫人と目が合う。その目がエヴァンと同じダークブルーだと、ローズはぼんやり考えた。