夜が更けてきた。階下からは、まだ楽団の音楽が聞こえている。考え込んでいた彼女は、部屋のドアをノックする音に我に帰った。

「エヴァン?」

 はっとして、ローズはいそいでドアを開けた。

 だがそこに立っていたのは、待ち焦がれていたウェスターフィールド子爵ではなく、ウィルソン夫人の連れてきたメイドだった。

「大奥様がお呼びです。あたしと一緒に来てください」

 大奥様……。子爵の祖母、老ウェスターフィールド子爵夫人、レディ・エリザベスだ。

 顔からさっと血の気が引く。この屋敷の奥の間にいることはドロシーから聞いていたが、もちろん会ったことはない。

 子爵も祖母の話はしなかった。ただかなり高齢のため健康が優れず、ずっとベッドにふせっている、とだけ言っていた。

 今その老夫人から、直接呼び出しがかかっているのだ。

 ローズは重い腰をあげて身じまいを正すと、メイドについて暗い廊下を歩いていった。

 三階の一番奥まった所にひときわ立派な扉があり、そこがレディ・ウェスターフィールドの居室だった。

 メイドのノックに応え、左右に重々しく扉が開いた。