たしかに、これは少し早まったかも知れないわね……。
翌日の午後。
ローズは角眼鏡をかけた厳格な顔の夫人の前に、げんなりした顔で座っていた。
遅い朝食のあと、ローズはロンドンでも名高い作法の教師、テンプル夫人の屋敷に連れていかれた。
エヴァン本人はと言えば、「一か月、しっかり頑張ってくれ」と言い置いて、さっさと帰ってしまった。
一人置き去りにされておろおろしているうちに、さっそくテンプル夫人がやってきて、レッスンが始まる。
「ミス・レスター、何です、そのフォークの使い方!」
「顔はまっすぐ上げて、身体の線は垂直に」
歩き方、目線、立ち居振る舞い、その他動作全般にわたり、厳しく注意される。
そのとき初めて、自分がいかにこういったことになれていないかを思い知った。中流階級出のローズは、上流社会の習慣から礼儀作法や会話の仕方にいたるまで、知らないことばかりだった。
「歯を見せて笑わない!」
そんなことしていません、などと言い返そうものなら、さらに三倍になって返ってくる。ひたすら忍耐して言われた通り動くしかない。
