ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜


 ローズがこれ以上耐え切れないと思った時、ようやく静かな声が沈黙を破った。

「そんな顔をして、どうしたんだい?」

「そんな顔?」彼女は目を見開き、おうむ返しに口にした。

「ぼくの結婚話を聞いて、ショックを受けたような顔をしている」

 子爵は憎らしいほど落ち着き払って、まだ彼女を見ていた。

「ショックだった?」

 ローズは思わず顔を背けた。頬に零れ落ちた涙を、見られたくなかったからだ。

「そんなことを聞きたくて……、わざわざこの部屋に連れて来たの?」

 わかってるくせに。

 もちろん大ショックです、と答えればご満足?
 だとしたら、おあいにく様。わたしは絶対言わないから。

 だが、無理に繕おうとした微笑も、中途半端に凍りついてしまう。

「どうした? ショックだったんだろう?」

 ローズは一生懸命に首を横に振った。

「そうかい? それじゃぼくが結婚したら、いっそマーガレットの家庭教師なんかやめて、花嫁の侍女になるというのはどう? 案外似合うかもしれないね」