ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜


 何か考え込んでいたエヴァンがゆっくりと振り返った。

 そこで、青ざめて立っているローズに気づき、ふっと表情をゆるめる。

「聞いていた?」

「し、失礼を……」

 口ごもりながら慌てて立ち去ろうとしたが、エヴァンがさっと近づいて来ると、彼女を囲い込むように壁に両手をついてしまった。

 ローズは壁に張り付いた格好のまま逃げられなくなった。

 エヴァンの端正な顔がいつになく間近に迫る。

 ローズはどぎまぎして思わず目を伏せた。沈黙の中、彼の息遣いと自分の息遣いだけが聞こえる。やがて、彼が離れた。

「ここじゃ人目につく。一緒に来て」

 彼女を伴いエヴァンは二階の使っていない小部屋に入ると、かちりと内から鍵をかけた。

 ローズは無意識に片手を喉元に当てていた。しんと静まり返った部屋で、自分の不規則な鼓動が彼にも聞こえているに違いないと思う。

 だが彼はローズの青ざめた顔を見守りながら、じっと黙ったままだ。