今すぐこの場を逃げ出したかったが、足が床に張り付いたように動かない。
そのまま息を殺し、大きな花瓶の陰に立ちすくんでいる以外どうすることもできなかった。
エヴァンの厳然たる態度にさしもの夫人もひるんだように、なだめ口調に変わった。
「エヴァン、ちょっと冷静におなりなさいな。あんなに素晴らしい侯爵家のお嬢様のいったいどこが気に入らないんです? ウェスターフィールド子爵家にとって、これ以上は望めないほどのお相手ではありませんか。あちらの家柄は、王家のお血筋も……」
「王家の血筋は存じていますし、アンナはもちろん素晴らしい女性です。それが理由ではありません。ただ自分の結婚相手は自分で選びます。この件に関しては、あなた達の干渉は一切不要です。これ以上、余計なことはしないでいただきたいですね」
頑として譲りそうにないエヴァンに、ウィルソン夫人は不快そうにため息をつきながら去っていった。
