平穏ないつもの日々が戻ってきたように見えた。
ローズはマーガレットの相手をし、子爵は相変わらず外出がちだった。
そうした中で召し使いたちの手前、極力普段どおりに振る舞っている子爵が、内心じれていることをローズは敏感に感じ取っていた。
小部屋や書斎で二人きりで会っていても、彼が満足していないのは明らかだ。
エヴァンから情熱的な言葉をかけられるたび、ローズは歓びと苦痛に引き裂かれるような気がした。
自分は、彼に何を与えられるのだろう。所詮、子爵家に大勢いる雇い人の一人にすぎないのに。
彼からいろいろ贈り物をもらっても苦しくなるばかりで、必要ないと何度言ったか知れなかった。
そんなある日、廊下を通りかかった時、偶然エヴァンと彼の叔母であるウィルソン夫人が、口論しているのが耳に入り、ローズは、はっとして足を止めた。
エヴァンがひどく腹を立てているようだ。
