ローズが椅子から立ち上がろうとするのを押し留め、エヴァンはその顔を覗き込んだ。
「今夜は、君を連れていきたいな」
「だめ!」
彼がさびしそうな顔をしたので、ローズは努めて明るい笑みを浮かべた。
「わたしなんかお連れになったらあなたの評判は台なし。そんな気まぐれを起こしたら、後でものすごく後悔なさるに決まってます」
「気まぐれだって?」
怒ったようにつぶやくとエヴァンも立ち上がった。ダークブルーの瞳に何か強い決意が宿るのを見て、どきりとする。
「ぼくは君が欲しいし、手に入れるつもりだよ。必ず……」
その時ノックがあった。扉の向こうで執事が時間を告げている。
子爵は舌打ちして、帽子とステッキを取りあげ部屋から出ていった。