「旦那様がお呼びです」

 夕刻、ローズが部屋で休んでいると決まってメイドがやって来る。

 ウェスター荘園から戻って半月が過ぎようとしていた。

 とうにメイド達も変に思っているだろう。主人が毎日外出から帰るなり、妹の家庭教師を部屋に呼びつける理由をあれこれ詮索し、ゴシップの花を咲かせているに違いない。

 だが、エヴァンに会いたいという気持ちを抑えることはもうできなかった。

 たとえ僅かな時間でも構わない。ローズは鏡を覗き、髪はきちんと整っているか、衣服は乱れていないか確認すると、子爵の待つ書斎に行った。

 ドアをノックするなり彼に室内に引っ張り込まれる。

「元気だったかい。今日はどうしてた?」

 一瞬、息も止まるほど抱きしめて、エヴァンが笑顔で問いかける。

 その表情があまりに魅力的で、思わず返事も忘れて見とれていると、そのうっとりした顔を覗き込んで彼はまた笑った。