ローズは放心状態で、涙をぬぐうことさえできずに突っ立っていた。

 子爵は彼女の前に立ちそっと手を伸ばした。

 ゆっくりと、だが力強く抱きしめられた時、ローズはようやく放心から覚めたように身動きした。

「あ、わたし……、わたし……」

 言葉にならなかった。ショックの反動でまた涙が溢れてくる。

 そのまま彼の腕の中で激しく泣きじゃくった。

 エヴァンは深く息をつくと、きつくそれでいて子供をあやすように優しく、ローズを抱きしめた。

「神よ……、間に合ってよかった!」

 呟いた彼の声も、震えている。

 ふいに子爵が動いた。

 彼の手があごにかかり、ローズの涙にぬれた顔を仰向かせる。

 ダークブルーの目にはこれまで見たことのない輝きが宿っていた。

 魅入られたように見つめ返していると、そのままゆっくりと、まるでためらうように、唇に彼の唇が重ねられた。