明日はもうロンドンに帰るという最後の日も、子爵は妹を伴い馬で村まで行ってしまい、城にはローズとリー夫妻だけが残っていた。

 昼食後、ローズは森へ一人で散歩に出ることにした。よい天気の日に、部屋に閉じこもってくよくよして何になるだろう。

 髪をきちんと結いあげ、いつもの紺色ハイネックの服をやめて、白い丸襟のついた茶色の服を着た。

 その上に薄手のショールを巻きつけて、ローズは小道を歩き始めた。 森はこの一週間よく歩いたおかげで、大分道も分かってきている。


 気持ちのいい午後だった。木漏れ日を受け、金の梢がきらきらと輝いている。

 悩みを吹っ切るようにローズは風に吹かれながらどんどん歩いた。気がつけば、子爵のことばかり考えている自分にあきれ叱責しつつも、なかなか気は晴れない。

 なんだか不思議な気持ち……。

 子爵が傍にいると鼓動が速くなり、遠くに姿が見えれば、いつも目で追いかけている。そして、気がつくとあのダークブルーの瞳を思っている。

 怖いような、うれしいような、会いたいような会いたくないような不思議な人。この不思議な感覚は何だろう。