ローズはそれからますます控えめに行動するように心がけた。

 たまに子爵と廊下などで出会ってもうつむいてお辞儀をするだけで、目さえ合わせることなく通り過ぎていた。


 いつの間にか、ロンドンの街路樹がオータムカラーに変わってきていた。


 ある日の午後、授業を終えて本や石版を抱え、自室に引き取ろうとしたローズを、廊下で子爵が呼び止めた。

「今終わったところかい? 少し話があるんだけど、いいかな」

 主人に話があると言われて、いいも悪いもない。

 ローズは緊張しながら、子爵と二人、サロンのテーブルに向き合った。

 彼は今日一日屋敷にいたのか、リネンの白い開襟シャツに黒のズボンという軽装だった。

 椅子の背に片腕をかけて足を組んだまま、子爵はしばらく黙ってこちらを眺めていた。何もかも見透されてしまいそうなダークブルーの瞳に出会うと、脅えに似た気持ちすら覚える。

 急に自分のメイドのようなハイネックの服が恥ずかしくなってきた。いつも彼が同伴している令嬢達の美しいドレスと比べている自分を、ばかばかしいと叱りつける。

 その時、子爵が口を開いた。