美奈子が帰った後、あたしはシャワーを浴びて、そのままベッドに蹲った。
このまま目を瞑って、朝になった時には、今までの記憶が何もなくなっていればいいと思うほどだった。
何も思い出したくもない。
何も思い浮かべたくもない。
だけど、現実は違う。
朝、目覚めて鏡を見て、赤く腫れているその瞳で昨日の出来事を思い出す。
何度も何度も冷たい水で洗ってもスッキリしない瞳。
「…しんどい」
思わず呟いて、深くため息をついた。
そして、行きたくないと思っていても、足は学校へと向かう。
…美奈子が待っているから。
今までそんな事、思った事ないのに、美奈子の優しさに感謝した。
「…若菜?」
昇降口に着いた途端、あたしの名前を呼ぶ声に振り返る。
「あー…アオか。おはよ」
「あー…アオかって、なんだよ、その言いかた」
「いや、別に」
「で、お前のねーちゃん、大丈夫かよ」
「あー…うん」
「で、なんでお前、あんな所まで行ってたんだよ」
「お姉ちゃんがさ、お母さんに会いに来てたから」
「へー…」
「結局は喧嘩して、帰ってったけど」
「で、お前は?最近どうなの?」
「どうって?」
「母親との生活」
「どうもこうもないけど。いつもと一緒」
「まぁ、あれだな。いつでもいいからまた俺んち来いよ。泊っていいから」
足を進ませて歩いていたあたしの足がピタリと止まる。
そしてゆっくり振り返って、アオを見た。



