「ま、待って恭!!」
外に出てから暫く歩いた時、あたしは踏ん張る様にグッと足に力を入れて立ち止まる。
「どした?」
「ちょっとここで待ってて」
「は?」
「忘れ物したから」
「は?忘れ物?」
「スマホ。靴履き替える時に下駄箱の上に置いたままだった」
「んじゃ、俺が行くから」
「ううん、いい。すぐ来るから待ってて」
「はいはい」
恭のスッと離された手は、そのままズボンへと入り、そこからタバコを掴んで出てくる。
口に咥えるのを見てからあたしは駆け足でさっきの場所まで向かった。
スマホの忘れ物なんて嘘。
あたしが会いたいのは…
「あ、あのっ!」
ゆっくりと歩いているその背後。
その身体が止まり、振り向いた瞬間、目を見開いたもののすぐに笑みに変わった。
やっぱ、似てる恭と。
…綺麗な人。
「あのっ、すみません。あたし…」
「どうしたの?」
「お父さんにヒドイ事を言ってしまって…」
「あぁ…大丈夫よ」
「ほんとにすみません」
「ううん。あの人のやり方はちょっと理解が出来ない所もあるから」
そう言ったお母さんは眉を下げ、悲しそうに微笑んだ。



