「なに訳の分からない事を言っている」
ツンとした口調の声で、何故かあたしの心が痛む。
「訳分かんねー事言ってんのは、そっちじゃねーのかよ」
「……」
「悪いけど、俺には大切な人が居る」
恭の言葉で今までにない緊張感が走る。
挨拶も何もしなくていいのかと変な不安が込み上げる。
と言うか、あたしの入る隙なんて何処にもない。
お父さんの視線があたしに向く。
顔をしかめたまま見つめられるその表情に息が詰まりそうになった。
「恭と付き合っているのかね?」
不意に投げ掛けられた言葉になんて言ったらいいのか分かんなかった。
だって、付き合ってないから。
あたしが好きなだけで、付き合ってはいない。
ここで自身をもって、“はい”って言えたなら…
「…はじめまして――…」
「って言うか、根掘り葉掘り聞くの辞めてくんねーか?」
とりあえず、挨拶だけはと思った。
だけど、その言葉をすぐに遮ったのは恭の冷たい言葉だった。



