「悪いけど、俺は好きじゃない相手とは結婚なんて出来ない」
そう言った恭の横顔をボンヤリと見つめた。
ただ、その言葉が嘘であっても、今のこの場の為だけの言葉であっても。
…それでいい。
「…本気で言ってるの、恭」
「あぁ」
「そんな事、認めるわけないでしょ…」
小さく呟かれた言葉に、何故かドクンと心臓が揺れる。
女が見つめる視線があまりにも怖くて、「…恭」と小さく耳元で呟いた。
その声に気付いた恭は少しだけ、あたしに視線を向ける。
…と、その瞬間。
「…――何してる。早く入ったらどうだ」
ふすまが開くと同時に聞こえて来た低い声。
その直後、小さく聞こえた恭の舌打ちで、この人が恭の父親なんだとすぐに分かった。
似てると言えば似てるかもしれない。
でも、この人が愛人を作って…その子供が恭だと思うと何故か心が苦しくなった。
そしてその実の母親と今、再婚してるなんて…
恭を見上げると、今までに見た事もない表情でお父さんを見つめてた。
いや、見つめてるって言う部類に入らない。
睨んでるってほうが正しいのかもしれない。
相変わらずに握りしめられている手に力が入る。
…どうすんの、恭。そう思った時、
「…俺、結婚する気ねーから」
静かに恭の声が落ちた。



