「丁度良かった。俺、お前とは結婚出来ない」
「え?何言ってんの、恭…」
…っ、
あたしまでもが言葉に詰まってしまった。
そんな簡単に躊躇う事もなく突如に言った恭の言葉に心臓が慌ただしく動く。
「だからお前とは出来ない」
「なにそれ。その子って、訳?」
スッと向けられた視線があまりにも怖くて思わず避けてしまう。
「だったらなんだ?」
「冗談じゃないよ。約束破る気?」
「約束なんて俺はしてねーぞ」
「したじゃない!二十歳を前にするって約束だったでしょ?」
「だから俺はしてねーって」
「お父様とお母様になんて言うつもり?もう話は進んでるの。破棄なんて許されないわよ?」
「だからそれを言いに来た」
「…っ、」
思わず泳いでしまった目の端のほうで、彼女の表情が映る。
はっきりと見れないけど、怒っているのは確かだった。
やっぱ、こー言うのって無理がありすぎる。
いくらなんでも婚約の破棄をする相手だなんて、むちゃぶりすぎ。
実際、恭と付き合ってもいないのにこんな事…
ただ、あたしが恭の事を好きなだけに…
不意に落ちた視線とともに、ギュっと握られた手。
その行為に、再び視線が少しだけ上がった。



