「はい」
廊下に出てすぐ小さく声を出す。
「若菜ちゃん!?」
「はい」
「来ないってほんと?」
「はい?」
「え、だから店に。若菜ちゃんは来ないって聞いたから」
あ、そうだ。
思い出した。昨日、恭に言われたんだっけ18時に麗美さんの店にって。
でも…
「あー…今、行ける状態じゃ…」
「てか、内容知ってんの?」
「内容?」
「そう。なんで椎葉くんに来てって言われたか」
「いえ…」
「あー、やっぱそうなんだ」
「はい?」
「ううん。あのさ、椎葉くん結婚相手と会うんだって。両親揃って」
「え?」
「だから許嫁ってやつ」
「許嫁…」
「そうそう。それを拒否るのは誰か連れて行かないといけないみたいで…じゃないとその人に決定されちゃうとかなんとか…」
「……」
だから言ったんだ。
“俺を助けると思って…”
でも、今は…
「どうしても無理?」
「ごめんなさい。今、姉の病院に居て…」
「そうなんだ。ちょっと気になったから」
「すみません…」
「うん、大丈夫。ごめんね、無理言って」
「いえ。こちらこそ、すみません…」
プツリと切れた電話の音が悲しく聞こえる。
その瞬間、恭の顔が頭から離れなかった。



