「…若菜ー、パンでいいよね」
リビングから聞こえてくる声に、「うん」とだけ返し、美奈子の番号を画面に映し出した時、勢いよく震えるスマホに思わず落としそうになる。
画面には、“アオ”の文字。
…はぁ、アオもか。
そう思いながらスマホを耳にあてる。
「…おい、お前何処にいんだよ」
勢いよく飛び交ってくるアオの声に思わず眉間に皺が寄る。
「おはよ…」
「おはよ、じゃねーし!美奈子ちゃん、心配してっぞ」
「うん」
「昨日、お前突然帰ったんだって?」
「うん」
「だから、心配してる」
「うん」
「お前は“うん”しか言わねーのかよ」
「違うよ。アオが話し過ぎてタイミングがないだけ」
「あぁ…で、どこに居んの?」
「お姉ちゃんち」
「はぁ!?」
「ちょっとした家出ってところ」
「はぁ!?」
「って冗談だけどさ。明日は行くからさ――…」
ガチャン――…
あたしの声を遮ってリビングから聞こえて来た激しい音に思わず声が途切れる。
「おい、どした?」
アオの声を聞きながら慌ててリビングに行くと、蹲ってお腹を押さえるお姉ちゃんがいた。



