「ほんとの事、言ってもらってもいいですか?」
あたしは千沙さんの、その腕を見つめながら口を開く。
「ほんとの事って?」
「さっき言ってた事、嘘ですよね?千沙さんが恭を好きになったって…」
「嘘じゃないよ」
「じゃ、なんでそんな顔するんですか?」
「え、何それ…」
あははと、笑いだした千沙さん。
でもその顔は悲しそうで。
「なんで本当の事なのに悲しそうにするんですか?千沙さんは、まだアオの事好きなんじゃないんですか?」
そう言った瞬間、あたしは見逃さなかった。
一瞬だけ、揺らいだ千沙さんの瞳を。
そして千沙さんは頬を緩めた。
「…あなたの名前、なんて言うの?」
「若菜です」
「凄いね、若菜ちゃんって…」
「え?」
「そこまで必死になるって凄いと思った。どっちが好きなの?」
「はい?」
「蒼斗と恭…どっちが好きなの?」
「え?あたしは別に…」
「じゃなかったら、こんな所に来ないでしょ?あー…でもなんか久しぶりに疲れちゃった」
「…大丈夫ですか?」
「あー、ううん。そう言う意味じゃなくてね、嘘で疲れちゃった」
そう言って、千沙さんは苦笑いを浮かべた。



