「あー、忘れちゃってました」
エヘっと笑う千沙さん。
そんな表情を見てると、さっき言ってた事が本当だとは思わなかった。
「あ、そうだ!やっと退院決まったんだってねー」
「そうなんです」
「良かったね」
「はい」
「ホントに長かったよね。入退院ばかりで疲れたでしょ?」
「ほんと、そうですよ。思春期時なのに何も出来てませんよー」
「でもあまり無理しちゃダメだよ。また出戻りだよ」
「はーい」
「我慢してた分、恋も出来ちゃうねー」
「ってか、そんな人いませんからー」
「あはは。そうなの?でも、とりあえずおめでとー頑張ったね」
繰り広げられる会話。
入退院ばかり。
我慢してた分、恋も出来ちゃう…
人って、絶対に何かを犠牲にし嘘をつく生き物だったりもする。
たとえ、それが間違っていたとしても、そうしなきゃって思ってしまう。
だから、きっと。
看護師さんが空になった点滴を持って病室を出た瞬間、千沙さんは表情を硬くし、さっきまで張りが刺さってた腕を何度も擦りだした。



