「よく、来るの?ここに…」
「んー…たまに?」
「へー…そうなんだ」
恭はこー言う所によく来るんだ。
でも人の事言えないな、働いてるのはあたしだし。
頼みごとと言えども、こー言う場所で働いているのには変わりない。
「…丁度良かったわ」
「え?」
不意に言葉を投げつけられ、何が何だか分からないまま首を傾げる。
「何で、来ねーの?」
「…え?」
「ビルに来なかっただろ?」
「あぁ…」
「一度も来ない事なんてなかったお前が来ねーから心配したけど」
…心配?
嘘でしょ?
だって、キスしてたじゃん。
「ちょっと体調悪くてさ、」
恭がスッと咥えたタバコにつかさずライターを差し出す。
その行動に一瞬、恭の瞳が止まって、あたしを見つめた。
「慣れてんね」
そう呟いた恭はライターの火にタバコを近づける。
「仕事、だから」
「そう。…で、大丈夫なわけ?」
フーっと天井に向かって吐いた煙に視線を送った恭は、すぐさまあたしに瞳を向ける。
「大丈夫」
本当は大丈夫なわけ、ないじゃん。
あんな光景見て、大丈夫なんて思えない。
だけど、恭は知らないんだ。
あたしが見てた事。
だからと言って、見つかってたら余計に嫌だけど。
「そっか」
言葉に躓(つまづ)いた。
上手く、いつものようにスラスラと会話が出てこなかった。
…早く、帰りたい。



