一瞬、見間違えたかと思った。
まさかのまさかで、同じ人がこの世に2人居るんだと思ってしまった。
いや、だけど違う。
目の前に移るのは誰がどう見ても―――…
「…お待たせしました」
恭だった。
仕事だからとりあえず頭を下げた。
真っ赤なドレスに身を包んだあたしは、スカートを押さえながらソファーに腰を下ろす。
深くソファーに背をつけた恭は姿勢を整えてから座り直す。
「…お前、なにしてんの?」
第一に掛けられた言葉がそれだった。
いや、あたしじゃなくて、アンタでしょ?
なんでここに居るの?
「仕事。…って言うか母の頼みごと」
「へー…」
「恭はどうしてここに?」
グラスにカランと音を立てながら氷を入れる。
「んー…連れの誘いごと?」
「誘い、事?」
「そー、あっち」
軽く指を差す方向に視線を向けると、一人の若い男の人が女の人と和気あいあいにしてた。
「そう、なんだ」
「で、お前見つけた」
「そっか。よく分かったね」
元々置いてあったワインのボトルを、グラスに注ぎこむ。
それをスッと差し出すと、
「違うかな、って思ったけど若菜って、そう呼ばれてたから」
そう言った恭に胸がドクンと高鳴った。
たかが名前を呼ばれただけ。
だけど、初めてその口から言われると一瞬戸惑ってしまった。



