店が始まる直前にみんな集まってオーナーの話を耳に入れた。

慣れてるとは言え、この雰囲気にはなれない。


要するにお客に酒を継ぎこむ場所。

この都心じゃ有名であろうこの店はあたしには不釣り合い。


高校生とは言えども、ここで働くのはまずいんじゃないかと思うこの店。

天井にはシャンデリアがギラギラと輝いていて、目を酔わす。


綺麗なドレスで身を包んだ女の人達は、店が開くと同時に指定のお客さんの元へ駆け出した。


「…若菜ちゃんっ、」


麗美さんに呼ばれて振り向く。

笑顔満開の麗美さんは手招きをして、口を開いた。


「3番テーブル入って。若菜ちゃんの知ってる人だから」

「あ、はい」


言われるがままに足を進めた場所は記憶の片隅のほうで覚えている――…


「お待たせしました。…遠藤さん、でしたよね?」


恐る恐る声を出してみた。


「あー!若菜ちゃん、覚えてくれてたんだ」

「当たり前じゃないですか」


笑顔は作るのは好きじゃない。

むしろ、出来てるのかも分かんない。


だけど、嫌とは言ってられない。


「いやね、若菜ちゃん来るよーって聞いてたからさ、つい来ちゃった」

「えー、ありがとうございます。嬉しいです」

「1年、以上ぶり?かな」

「そうですね。遠藤さん、なんか若返りました?」


笑顔を作って、遠藤さんの顔を覗き込む。

この人は、大手のデザイナーの社長さん。


50代なのに若々しいその風貌にあたしですら驚かされたくらいだ。


「えっ、そう?若菜ちゃん見たからじゃない?」

「いやいや、遠藤さん上手いですね」


グラスに氷を詰め込み、ブランデーを注ぎこむ。

それを遠藤さんの前に差し出すと、「どうも」そう言って、遠藤さんは口をつけた。