リビングに足を踏み込めば、まるで異次元世界にでも来たのかであろう光景が目に飛び込む。
漂うタバコと酒の臭いでむせかえりそうになる。
テーブルの上には散乱してあるビールの缶に焼酎の瓶。
灰皿から溢れそうなくらいの吸い殻。
その光景を目にしながら、あたしは抱えていた鞄を椅子に置き、ビールの缶を数本まとめて掴んだ。
ベランダの窓を開け、そこにあるゴミ箱に投げ込む。
ガチャガチャと音をならして、それが崩れた。
「…あー、あんた居たの?」
不意に聞こえた声に視線を向けると、今起きたであろう母が明るく染まった髪を無造作に掻きあげる。
「ちょっとは片づけてよね…」
小さく呟くあたしに母は面倒くさそうにタバコを咥えた。
「こっちは働いてんの。疲れてんのよ」
椅子に座ってタバコに火を点けると母は深いため息を吐き出す。
昔はこんなんじゃなかった。
昔はもっと普通の毎日だった。
でも、ほんと記憶がある数年だけ。
小学の時に病気で父を亡くして以来、母は変わった。
何もかも、全て母は変わった。



