別に彼に会って、話をしようとかそんなんじゃない。
ただ、一目だけでも見たかったから。
無我夢中で動いてる足はそう楽なものでもない。
古びたビルだから当たり前にエレベーターなんて動いてなくて、開放的になっている鉄階段を必死で掛け降りた。
降りた頃には息すら切れて、思う様に身体が動かない。
縺れそうになる足を懸命に動かし、大通りを渡ろうとした瞬間、目の前に勢いよく車が通り過ぎ去った。
目の前の信号はよりによって、赤。
思わずため息を吐き捨てたあたしは、苛々しながら過ぎ去って行く車達を目で送った。
と、する車と車の間から見える彼の存在。
「…ちょっ、」
目で追っているその彼の存在が一瞬にして消える。
なのにまだ変わろうともしない信号。
そして暫くして変わった信号を目にして走ったあたしは彼の向かった方向に目を送った。
「遅かった、か」
フーっと息を吐き捨て、未だに存在を探そうとする。
だけど、紛れてくる人達で探すにも探せない。
でも、一つだけ分かった事があった。
ビルからでは見えなかった彼の姿。
いつもベンチで寝ているから分からなかった。
それはまさしく近くの高校の制服だったって事。



