「聞こえてるから」
「なーんだ、良かった」
「で、何?」
「何って、若菜ちゃん帰っちゃうんだもん」
ちょっと不貞腐れたような声が耳に張り付く。
電話越しから聞こえてくる美奈子のため息が大きく聞こえた。
「用って、それ?」
「そーだけど。だって帰るなら連絡ぐらいしてよねって、」
「ふーん…」
「ねぇ、若菜ちゃん明日は来るでしょ?」
「さぁ…ね」
「ダメだよ、帰りにケーキ食べに行こう」
「…って、あのさ。アンタは何なの?友達気取りでもしてる訳?」
「気取りじゃないよ。若菜ちゃんとは友達だから。でねっ、明日―――…」
「ちょっ、ごめん切るから!!」
一方的に切った美奈子の電話。
それは彼が動いたから。
ベンチに寝ていた彼が起き上がって、足を進めたから。
今、急いで掛け降りると見れるかもって、そう思ったから。
だからあたしは携帯を無造作に鞄の中に突っ込んで走った。



