「だったら俺と係わんないほうがいい」
「…え?」
恭の口から出たのはいつもの滑らかな口調じゃなかった。
ちょっとトゲのある様な言い方。
係わんない方が、いい?
そう、みんなが言う言葉を恭は口にした。
美奈子もアオもそう言った。
だけど、そう聞いた時に、“じゃあ、そうしよう”なんて言葉は頭の片隅にもなかった。
ただ、あたしは恭が気になったから。
周りからどう思われたっていい。
彼が、悪い人なんかじゃないって、そう思うから。
たまにする悲しそうな顔が、頭から離れないから。
だから。
周りなんてどうでもいいの。
クルッと背をあたしに向けた恭に、
「ちょっ、ちょっと待って!」
急いで鞄を掴んだあたしは、今から階段を降りようとする恭の腕を咄嗟に掴んだ。
「待ってって、言ってるでしょ?」
振り返った恭にあたしは眉を寄せる。
「来んの?」
「行くってば!」
「そんなに果物が欲しいのかよ」
フッと笑う恭に思わず頬を膨らませた。



