「あの時、ハンカチを落とした方でしたか」


「…ハンカチ、ですか?」


「ええ・・・

冬美が貴方のハンカチを拾って、

まだ持っていると思います。

今度、お返ししますよ」


「そうでしたか・・・

ないとは思っていたんですが」


・・・

秀明との会話中も、

冷静を装うのに、必死だった。

・・・

冬美がなぜ、

あのハンカチを大事に握りしめていたのか。

冬美がなぜ、

廊下で止まったまま

見ず知らずの人を見つめていたのか。

・・・

やっと、

気持ちが近づいてきたのに、

なぜ、

この男が俺達の前に現れたのか。

やっと、

少しずつ、

オレの事を想うようになってくれたのに。