嘘吐きなその唇で




本当は分かっているくせに。



舌打ちしたい衝動に駆られたが、グッと堪(こら)える。



『すみません、見誤っていたようで……。先生のお顔に黒いゴミが付着していると思ったら、泣き黒子でした』



そう嫌みったらしく言うと、



「なら、良かった」



彼は口元に綺麗な弧を描いて微笑んだ。



そんな私たちのやり取りのどこが面白かったのか、雅哉は肩を震わせ声を殺して笑い出す。



それが無性に腹が立ったので、とりあえず雅哉が座っている椅子の脚を思い切り蹴っておいた。