とある日の移動教室。




両手に抱えて来た教科書、ノートを机に置く。

邪魔になるけれども、持ってこないといけない資料集をひきだしに入れようとして。




「………?」



引っかかった感覚がした。



前の人の忘れ物かな?



椅子を引き、そこを覗き込むと、片手より少し大きいくらいの紙がひとつ。



勢いよく突っ込んだ資料集にくしゃくしゃにされてないか………。



そんな心配もして、取り出してみる。

幸い、角が少し潰れるくらいで済んでいた。


宛名もなければ、封もされていない。

なんの変哲も無い、空色の封筒。



どうしてか、中身がやけに気になった。

着席して、机とわたしの間にできた隙間から開封作業を行う。



こそこそしてるのは、他人のものを勝手に開ける罪悪感からか。



封筒より抜き出した二つ折りの便せん。


開こうとしたところで、授業開始のチャイムが鳴った。



思い思いの行動をしていた生徒達が席に着きだす。

前の扉から教師が入って来たので、ひきだしに封筒と便せんを放り込んだ。




「起りーつ、礼」

「よろしくお願いしまーす」

「着せーき」

「では、前回の続きから……」




始まりの挨拶をする生徒の号令が終わったそばから、教壇に立つ人がページをめくる。

彼女が黒板の方を向いた隙に、手探りで便せんを摘み、教科書の陰に隠す。


新任教師の慣れない授業は、ほとんどが教科書を読み上げるだけの退屈なそれ。


下を向くことが多いのを、これ幸いに便せんに綴られた文字を追う。