私も奴に背を向けると走り出した。
門の見える場所へ向かう。
「そっちはどうだ?」
[問題なし]
「了解」
門にスーツを着ている男が1人居る。今の無線を聞く限り、1人しかいないことが分かる。
「1人、か」
草むらから息を潜めて行動を観察する。
するとまた無線から音がした。
[うわっ!?こちら見回り班!何者かがこちらに潜入していた模様。至急っ、直ちに応援を呼んでくれ!…………]
ブチッ
切れると同時に、遠くから悲鳴のようなものが聞こえてくる。
「……」
どうやら上手くやってくれているようだ。
警備員も聞こえたようで、走っていった。
「よし…」
今がチャンスだ。
軽く周囲を見て、急いで草むらから立ち上がり、門の下へ走った。
あとは門の鍵が開けられれば、自由だ。
改めて周囲を見回すと、人気はなく、今なら大丈夫そうだ。
ポケットに忍ばせていた針金で解錠を試みる。
「開いて…お願い」
急ぐ気持ちが空回りして、上手く手が動かない。
「お願いよ」
何度も門の戸を押してみるが、鍵が掛かっていてビクともしない。
急がないといけないのに、どうして。
「どこへ行こうというのですか?」
背後から聞こえた声に、振り返った。
「……なぜ君ががここに居る?」
あの……と言いにくそうに間をあけると、柳は口を開いた。
「すみません……約束を破りました」
彼は申し訳なさそうに頭を下げる。表情は見えないが、うつむいた彼は心なしか笑っているように見えた。