自室へ戻ると、いつの間にかベットが整えられていたのが目に入った。
「……」
持って来ていた荷物から洋服を出す。
ヒラヒラのスカートとは違って、動きやすい洋服を取り出した。キャップを被ればほぼ完成する。
長い髪を編んでキャップに隠す。
「早く準備しないと……」
準備で別々にしておいた荷物を探す最中に、ふと目の前にあった全身鏡を見つけて、覗き込んだ。
全身鏡に映るのはいつもと違う自分。
「……これが、私」
ずっと見つめていても仕方ない、私は荷物を整えると、リュックを背負って部屋を出た。

バルコニーに出る。
ここの別荘には薔薇が沢山あり、少し動けば棘が刺さって傷だらけになる。
慎重に動く必要があった。
ニャァ
足元で鳴き声がする。黒猫が私の足に体をすりよせてきた。
やけに人懐っこい黒猫だ。首輪をしていないということは、迷い込んだ野良猫だろう。
「君も迷ったのかしら?……こんな所に迷い込んでしまうなんて、不幸な子。そのうえ、私に出会ってしまうなんて。ますます運が悪いわね」
頭を撫でてやろうと手を近づけると、黒猫はフイッと顔を背けた。
やっぱり、動物は嫌いだ。
「今急いでいるの、悪く思わないで」
移動できそうな場所を見つけると、すぐさま中腰で走った。